オリジナルゲームブック ひぐらしのなく頃に業卒 郷巡り編 パラグラフ009

 ※妄想による二次創作です。ご注意ください。

 ※「郷巡り編」も造語です。何かと被っても偶然です。

 ※初めての方はパラグラフ001からどうぞ。



 ライトはつけているが、猛吹雪で視界は最悪。沙都子にはどこに道があるのかさえ分からなかった。

 そんな道を雪を描き分けてスイスイと車を進ませる葛西。

 「詩音さん。こんな日に車を出させるのはこれっきりにしてくださいよ」

 「葛西、こんな日のために何度も通わせて道を覚えさせたんですよ。もう目をつぶっていても運転できるでしょ? そもそも、この車を事前に調達していたのは葛西でしょ?」

 「ああ、わかりましたから、少し黙っていてもらえますか。運転に集中します」

 葛西は、この話を沙都子に聞かれたくないのか、それきり黙って運転に集中した。

 「はーい、任せた葛西。沙都子、眠気覚ましに温かいコーヒーがありますよ」

 詩音達の矢継ぎ早のやり取りに、沙都子の目はすっかり覚めていた。


 詩音宅。

 「詩音さん、どうして私なんかを助けに来ましたの? あんな吹雪の中に車を出すなんて、葛西さんと一緒に心中することになりかねませんでしたわよ」

 沙都子の言っていることは無茶な行動をした詩音を咎めるものではあるが、詩音を非難する様なトゲは無かった。

 「まぁ、葛西と心中も悪くないけどね。ねーねーの私が沙都子を助けるのは当たり前です。沙都子が危ない、あの車で葛西の運転なら間に合う、家に何かあっても私なら助けられる。それだけのことです。沙都子には分かりませんか?」

 詩音はさも当たり前のことをしたという顔で葛西のいれた紅茶に口を付けながら続ける。

 「とりあえず、沙都子は我が家に無期限の同居です。詩音ハウスへようこそ」



 次の日の雛見沢。

 昨晩までの吹雪はどこへやら、吹雪どころか雪もやみ、太陽さえ出ていた。

 そうはいっても、屋根の上に大量の雪が積もっているので、村人たちは雪下ろしに精を出していた。


 詩音は、夜のうちに魅音に連絡しておき、沙都子ハウスと沙都子の状態は連絡済み。もちろん、連絡網での伝達も魅音に丸投げしておいた。魅音は不満を漏らしていたが沙都子の無事に安堵していた様子だった。

 沙都子が無事ということなので、夜のうちは我慢していたようだが、詩音宅には次々に電話がかかってきていた。


 「まったく、お姉の奴! うちの電話番号を雛見沢のみんなに公開して、プライバシーの侵害です!」

 部活メンバーはもちろんだが、富田や岡村、沙都子ハウスのご近所さんからもひっきりなしに電話がかかってきている。詩音は電話番に不満を漏らしつつも、村人達から電話がかかってくるのはまんざらでもない様だった。


 「ところで沙都子、そのリュックには何が入っているの?」

 葛西が作った朝食を食べつつ、詩音は沙都子に訪ねた。

 「え? あ。これは……」

 沙都子の非常用リュック。いざという時に素早く持ち出すために、いろいろ入っている。

 財布、通帳、印鑑、懐中電灯、着替え、水、保存食、かんしゃく玉、マキビシ、爆竹、目つぶし用コショウ、その他色々。

 「おーほっほっほ! トラップツールの数々ですわ!」

 「えー、じゃあ、その濡れない様にビニールに入っているのは何?」

 「あー! これは秘密のトラップだから詩音さんに見せられませんわー!」

 沙都子は詩音に中身を見せまいとリュックをもってぐるぐると走り回っている。


 今日何度目か分からない電話が鳴る。

 「詩音さん、入江診療所の入江先生から電話です。緊急だそうです」

 「はい、詩音です。監督、沙都子は無事ですよー」

 「いや、沙都子ちゃんのことではなくて、いやいや、でも沙都子ちゃんと関係なくは無くて……」

 「え? ……」

 詩音は受話器を持ったまま動きを止め、はらはらと涙を流す。


 「どうしたんですの?」

 逃げ回るのを止めた沙都子は、詩音に尋ねつつ、大事にしまっておいた荷物を一つ一つテーブルの上に並べていたのだった。

 テレビの天気予報によると、しばらくは雛見沢村に良い天気が続くようだ。

 春はもう近くに来ている。



 → 015へ行け


コメント